理路雑然―198―
2022年06月04日(土)
特集記事
理路雑然
先日参加したセミナーは分かりにくかった。理由は内容ではなく「させて頂く」という言葉遣いがやたら多かったからだ。丁寧な言葉に聞こえそうだが多すぎると耳障りに感じる。話のリズムも悪くなりくどいのだ。上司は部下にこんな物言いを教育してはいけない▼テレビに出てくる大企業のお偉いさんや政治家がよく使う。言葉巧みな営業マンにも多い。気に入られようとする下心が見えるし卑屈さを感じ、逆に不信感が湧く。しかし今は「させて頂く」表現が蔓延して誰も変に感じなくなっているようだ▼この表現は文法的に疑問がある。「させて頂く」は、「させて」と「頂く」をつないだもの。「させて」は相手の許しを受けることを表し、「頂く」はその恵みを受ける感謝の意味がある。丁寧に聞こえると言うだけで使わない方がいい。それよりも「いたします」の方がすっきりしているし積極性を感じる▼もともと話す側がやろうとしていることなのに「させて頂く」というと、責任をこちらに向けられているようだ。頼んでないと言えば皮肉になるが、敬語、謙譲表現は多すぎると慇懃無礼でうっとうしい。伝える中身が薄れる▼「ございます」も繰り返し使われると、江戸時代の侍の「ござる」「ござります」みたいでむずむずする。聞くのにかんむりと袴と上下が必要になる▼話の中からこの類いの言葉が少ないと実に聞きやすい。時間も言葉数も少なくて済む。ニュースアナウンサーは「です」「ます」で終える。素っ気なくとまでは言わないが話はシンプルな方がいい。「させて頂く」言葉は、始めと終わりくらいの方が引き締まる。