特集記事

【建設DX企画】国を挙げてDX化を推進/建設分野の業務効率化/生産性向上・働き方改革で山積する課題に対応

2025年01月04日(土)

特集記事

その他

インフラ分野のDX(20~30年後の目指す社会のイメージ)

災害対策におけるDX(20~30年後の目指す社会のイメージ)

浸水想定区域内の3次元データを整備

都道府県・政令市のICT土工実施率

国交省直轄工事のICT施工実施率

15年12月に現場視察に訪れた石井国交相(当時)

新たな段階に入るi-Con

 石破茂総理は、2024年11月29日の所信表明演説で、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を切り口に、各戦略分野への投資を進めて経済全体の活力を上げるとともに、新しいICT(情報通信)技術をフル活用して地方を高付加価値化し、GX(グリーン・トランスフォーメーション)への投資で地方創生につなげるなど、国を挙げてDXに積極的に取り組んでいく姿勢を示した。 



長崎ではインフラDXアクションプラン策定


 建設分野でもDXを積極化。国土交通省が建設現場の生産性を向上させるi―Constructionを提唱してから、25年で10年目を迎え、新たな段階に入ろうとしている。


 地方自治体でも建設分野のDX化が進んでいる。長崎県では、24年度に、DXの取組を推進する専属部署として、県土木部に〝インフラDX推進班〟を新設。早速、『情報共有システム及びWeb会議併用による災害査定の効率化』で、24年度のインフラDX大賞の優秀賞を受賞するという結果を見せた。


 この取り組みは、情報共有システムにより、県・市町が作成した災害査定用のデータをクラウド上で保管・共有し、Web会議システムを活用することで、リモートでの災害査定を実現するもの。査定官と協議しながら試行的に進めており、机上査定の際には積極的に運用している。


 さらに12月には『インフラDXアクションプラン』を策定。激甚化する自然災害やインフラの老朽化進行に加え、インフラの新設整備も道半ばの中、他産業よりも高齢化が進む建設業として、時間外労働の上限規制適用や将来的な労働力不足に対応するため、DXによる生産性向上・働き方改革が急務と判断。官民一体となってDXを積極的に進めるため、目指す姿や目標を示した。


 同プランは「インフラ分野のDX」と「災害対応におけるDX」の二つの柱を掲げている。インフラ分野では、調査~施工~維持管理などの建設生産プロセスの各段階で、地域の実情を踏まえ、品質を確保しつつ生産性が向上できるよう配慮し、3次元データの活用やICT建機による施工などを通じてDXを推進していく計画だ。


 災害対応に向けては、平常時から災害に備え、被災を軽減する方策を準備。発災時には初動対応を迅速化し、情報収集・被害軽減に努めるとともに、早急な復旧に向けてDXを推進。


 具体的な施策は、既に取り組みをはじめている「DX事業」と、現時点で検討段階の「DX検討項目」に分けて提示。インフラ分野の柱では、DX事業として▽ICT施工の普及▽工事・業務に関する情報共有システムの活用推進▽走行画像計測によるトンネル点検の効率化(道路施設)▽港湾施設の一元管理による効率化(港湾施設)▽3次元計測技術を活用した工事管理の効率化(砂防関係工事)―。DX検討項目として▽長崎県版のBIM/CIM活用▽三次元データプラットフォーム▽三次元活用による効率的な道路空間情報の把握(道路施設)▽タブレット端末などを活用した道路パトロール・点検(道路施設)▽三次元活用による施設管理(港湾施設)▽UAVとAIを活用した定期点検支援(港湾施設)―をそれぞれ掲げている。


 災害対応の柱では、DX事業で▽デジタル技術を活用した災害査定▽水中ドローン活用による被災状況確認(港湾・海岸施設)▽ダム洪水予測による警戒体制の合理化(河川情報)―。DX検討項目で▽大規模災害時における航空レーザーの活用▽物流ドローンの支援(港湾施設)▽洪水浸水想定区域等の3次元データを整備・提供(河川情報)※イメージ図▽河川の洪水予測による早期の災害対応促進(河川情報)―を挙げた。


 このほか、その他の取組として、DX事業で▽占用許可システム整備事業▽建築地図デジタル化事業―を盛り込んでいる。


 今回のプランは〝第0版〟。第1版策定前に一度公表することで、プランに対するさまざまな意見や最新技術の情報を多く集め、内容を充実させることを目的とした措置。県では、第1版以降も継続して内容を充実していく方針だ。


 佐賀県では23年度、建設業関連学科のある県内高校生向けのICT施工実習の実施。建設業への興味・関心を深めることで、県内建設業への就職を促すことを目指したもので、唐津工業高校建築科の40人、佐賀工業高校建築科の40人、高志館高校環境緑地科の20人、佐賀農業高校環境工学科の40人、鳥栖工業高校土木科の24人、北稜高校土木科・建築科の37人の6校7学科計201人が受講した。


 県内建設業者向けには、24年度に建設DX加速化事業費補助金を交付。事業場内最低賃金を25年1月31日までに3%以上引き上げることを条件に、ICT建設機械やICT後付け機器、3次元測量機器や3次元測量機器搭載用ドローンの導入費用を補助し、建設現場の生産性向上と担い手の確保を目指している。





10年目迎えたi―Con~生産性向上、次の段階に~


ふたたび国の動きに目を移し、10年目を迎え新たな段階に入ろうとしているi―Constructionのあゆみとこれからを紹介する。
 公共工事にICTを全面的に活用するとして打ち出したICT施工のうち、ICT土工の23年度末時点の実績は、直轄工事で累計1万3228件、都道府県・政令市で1万1214件に上り、直轄工事のICT施工の実施率は87・2%までになった。従来施工と比べ、ICT土工の作業時間は平均3割の削減効果が確認されている。



■測量から設計まですべてのプロセスにICT

 2015年11月、石井啓一国土交通相(当時)は会見で、「建設現場の生産性向上に向けて、測量・設計から施工、さらに管理に至る全てのプロセスにおいて、情報化を前提とした新基準を来年度より導入する」と発言。現場の生産性を向上させるプロジェクトをi―Constructionと名付けることを打ち出した。


 その後発足した有識者会議は「ICT施工」「コンクリート工の規格の標準化」「施工時期の平準化」を柱に取り組むことを提言。国交省は16年3月までに技術基準を定め、翌4月からICT施工が現場に導入された。



■停滞した企業努力 高齢化も深刻に

 i―Constructionがスタートした当時の建設産業と建設現場はどのような状況に置かれていたのか。2000年代の建設産業では、労働者の減少を上回る公共投資の削減によって、労働力が過剰供給に陥った。これにより、現場の生産性向上は見送られ、生産性を高める企業努力も停滞していた。


 しかし、東日本大震災や自公政権の誕生を契機に公共事業費が回復すると、労働力不足が一気に表面化した。それ以前の労働力の過剰供給と過当競争によって若年層も採用されず、高齢化は深刻な状況になっていた。その後の10年で高齢化した技能者が一斉に退職し、技能者が110万人減少する、との推計もあった。


 i―Constructionには、建設投資が上昇局面に入ったことを契機として、生産性の抜本的な改革によって労働力不足を補う、という狙いがあった。



■ドローンが変えた生産性 作業時間は3割削減

 ICT施工のスタート時点で、まずターゲットになったのが、他工種よりも生産性の向上が遅れていた土工だ。新工法の開発などによって、生産性が急速に伸びていたトンネル工と比べ、土工の生産性は横ばいで推移しており、生産性向上の余地が大きかった。


 ICT施工とそれ以前の情報化施工の大きな違いは、3次元測量にドローンを取り入れたことだ。ドローンの活用により、トータルステーション(TS)を使用するよりも、起工測量や出来形管理の作業時間が大幅に短縮。3次元設計データでICT建機が自動制御されることにより、施工段階の作業時間も短縮されるようになった。


 国交省が直轄工事のICT土工の施工者を対象に行っている調査結果によると、起工測量から電子納品まで延べ作業時間は32・6%削減されている(23年度時点)。





■市区町村の進捗に遅れ

 生産性向上の効果が確認されたことで、ICT施工の裾野は確実に広がった。全国建設業協会(全建、今井雅則会長)の調査に対し、ICT施工に「取り組んでいる」と回答した企業は63・0%。「労働者不足への対応や働き方改革のためにも生産性の向上は必須」と回答する企業もあり、i―Constructionの当初の目的が浸透している。


 その一方で、「都道府県や市町村は進捗が遅く、積極的にICT施工に取り組んでもコスト回収ができない」という声もある。市区町村の工事で導入が進まず、設備投資を回収する機会が少ないだけでなく、小規模施工にICT施工を導入しても生産性の向上の効果が小さく、採算性も低いといった当初からの課題は解消されていない。



■「2・0」にアップデート 省人化3割を目標に

 国交省はi―Constructionの裾野が広がり、生産性向上の効果が確認されている反面、生産年齢人口の減少、自然災害の激甚化・頻発化、インフラの老朽化など、建設現場の人手を巡る課題が一層深刻になっていることを問題視。「現状の取り組みのみでは生産性の向上は頭打ち」だとして、i―Constructionを「2・0」へとアップデートする。


 i―Construction2・0の柱は自動化技術の積極的な活用だ。建機の自動化によってオペレーター1人が複数の機械を管理する「施工のオートメーション化」、設計データを施工データとして直接活用する「データ連携のオートメーション化」、リモートでの監督検査やプレキャスト製品を活用する「施工管理のオートメーション化」を図る。2・0の実装によって、2040年までに省人化3割、生産性1・5倍の実現を目指すとしている。


TOP