つながりとDXで拓く新たな建設産業/デジタルツインや電子契約も推進、災害対応も進化へ
2026年01月26日(月)
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1989年の長崎県入庁以来、道路分野を中心に土木行政に携わり、2018年度の建設企画課への異動を契機に、入札制度や建設業法をはじめとする担い手三法関係、そして各業界団体と深く関わる業務を担ってきた中村泰博氏が、本年度(2025年度)、技術的な立場から土木行政全般を統括・指導する土木部技監に就任した。現在、県が注力している事業や制度面の取り組み、さらには建設業界団体に対する思いを聞いた。
巨大プロジェクトの経験が今の礎に
―これまでの取り組みを振り返りつつ、今後の取り組み方向を聞かせてほしい
思い出に残る仕事は、鷹島肥前大橋(09年4月開通)の建設。ケーソン設置から完成までの4年間の長きに渡り関与させてもらった。続いて携わった長崎南環状線の唐八景トンネルも含め、巨大プロジェクトを担当することで、国や大手ゼネコンの仕事の仕方や流れを知ることができた経験は、今も役立っている。
現在は、防災・減災のための国土強靱化が継続的に推進されている。今後は、激甚化・頻発化する自然災害に対応するため、県内の高規格道路ネットワークの整備を確実かつ早期に進める必要がある。
これにより、観光客の増加や3次救急医療施設への搬送時間の短縮、農水産物などの輸送時間短縮、企業進出に伴う雇用の拡大にもつながる。併せて、防災・減災のための河川や急傾斜、砂防施設、空や海の玄関口となる空港や港湾の施設整備も重要と考えている。
一方で、既存インフラの老朽化は深刻化しており、事後保全型から予防保全型への転換を早期に図る体制の強化が急務となっている。
さらに、少子高齢化やコロナ禍の影響で、建設業界はかつてない変革を迫られ、生産性向上のためのDX推進、ICT施工の普及、書類の簡素化など、従来の枠を超えた取り組みが求められている。
入札制度や工事の平準化については、業界の協力もあり一定の成果が見られるが、担い手不足は依然として喫緊の課題。地域を守る建設業の皆様をしっかりと支えるため、行政としても積極的に環境整備を進め、持続可能な体制を構築していきたい。
さらに、頻発・激甚化する災害に対応するため、ドローンと3次元点群データを組み合わせた〝デジタルツイン〟環境を構築し、被災現場のリアルタイム把握を実現したい。
応急復旧段階では、建設業協会が今年度から導入した〝危機管理システム〟を活用したリモート会議で専門知見を集約し、情報共有と意思決定が可能となる体制を構築し、災害対応のDX推進を目指していく。
我々の使命は、単なるインフラ整備にとどまらず、地域の未来を見据え、安心・安全な社会を築き、次世代に誇れる国土を引き継ぐこと。そのために、技術と知恵を結集し、関係者の皆様と力を合わせ、全力で取り組んでいく必要があると考えている。
長崎南北幹線道路、用地取得が本格化
―現在取り組んでいる主な事業について
高規格道路のうち、長崎南北幹線道路は、長崎市茂里町から滑石間の詳細設計が完了し、昨年10月に長崎市との間で用地取得等における協力事項を定めた基本協定を締結(=写真)し、本格的に用地取得に着手したところ。
河川事業では、本年度(25年度)までの『緊急自然災害防止対策事業債』や、29年度まで延長された『緊急浚渫推進事業債』を積極的に活用することで、適切かつきめ細やかな河川の維持管理を計画的に実施していきたい。
このうち緊自債は、本年度までの制度となっているが、機会あるごとに総務省や財務省へ要望する中、昨年11月に、衆議院総務委員会で林総務大臣が事業期間を延長する方針を表明した。新たな期間や計画額など詳細な内容は、予算編成過程で検討することも示された。県としては、引き続き、機会あるごとに国に対して地域の実情をしっかり訴えていく。
既存インフラ対策のうち、離島架橋など長大橋については、高度な技術力やノウハウを持つ民間企業に、長期にわたって点検~補修設計~補修工事を包括的に業務委託し、高度な予防保全の実行とライフサイクルコストの縮減による長期供用の実現を目的とした「官民連携事業」の導入を検討してきた。
対象は、西海橋や平戸大橋など支間長200㍍超の7橋。ただ、橋梁の維持管理に関する官民連携の取り組みは国内に前例がないことから、長期契約による官民双方の課題・効果を検証することにした。
まずは重点維持管理橋梁の2橋を対象に、5年契約での第1期事業を26年度から試行するため、25年10月に公募型プロポーザルの公告を行ったところ。本年度中に優先交渉権者を決定する予定だ。
電子契約を段階導入、受注者にも大きなメリット
―制度・政策面で注力していることは
建設業界の担い手確保に向けては、長崎県建設産業団体連合会と共催で『建設企業経営者向け意識改革セミナー』を22年度から行い、建設企業経営者の意識改革を図っている。
工事や委託関係の電子契約は、この1月から試行を始め、県南振興局が開設される27年度までに、契約全般に適用できるよう、段階的に拡大していく予定。電子契約は、県が契約するクラウド型電子契約サービスを活用するため、インターネットを使用できる環境があれば、新たにサービス利用のための事前準備は不要で、費用も発生しない。
受注者は、電子契約サービスを活用することで、契約書の製本・持参・郵送の手間がなくなり、印紙税も不要となるため、時間や経費の削減につながるなど、メリットは大きいはずだ。
建設業界の人材育成に向けては、(公財)長崎県建設技術研究センターが19年度から、実務経験0~3年程度の若手技術者を対象に『土木施工管理基礎研修』を実施。厚生労働省の助成金が活用可能で、離島の受講者には旅費の支給もあるため、本土・離島に係らず、県内建設企業の方々には若手職員の受講を積極的に進めてほしい。
喫緊の課題である働き方改革と生産性向上を、建設業で推進するには、現場の実態をしっかり把握することが必要。土木部ではこれまで、建設業協会との意見交換会を年1回開催してきたが、24年度から年2回に増やして開催。県でできること、できないこと、国に訴える必要があることなど、さまざまな内容があるが、今後も、熱心に議論を深め合い、建設現場のよりよい環境を一緒に築いていきたい。
ICT施工やDXによる生産性向上に取り組むため、土木部では24年度から、建設企画課内にインフラDX推進班を設置。将来の目指す姿や目標を明示した『長崎県インフラDXアクションプラン(第0版)』を策定するなど取り組みを進めている。
このような中、『Web会議等を活用したリモート災害査定の取り組み』が、国土交通省からインフラDX大賞の優秀賞を授与されるなど、先進的な取り組みとして、一定評価を得ている。
「リモート災害査定」、インフラDX対象で優秀賞
―最後に県内の建設業者へのメッセージを
我々の使命は、県民の生活を支える社会インフラの整備と、その確実な維持管理を行うこと。そして、災害発生時には、早期の復旧・復興を図り、地域の安全と安心を取り戻すことが何より重要。
DXや担い手確保の取り組みが進展しても、最後にものを言うのは〝人と人のつながり〟であるため、行政と業界が信頼関係を築き、互いに協力し合うことこそが、社会基盤を円滑かつ迅速に整備するための鍵だと考えている。
行政は地域の窮状を国に訴え、必要な予算を可能な限り確保する。その後、獲得した予算をもとに業界に委託業務や工事を発注していくことになるが、この段階で極めて重要となるのが、行政と業界の強固な信頼関係。信頼なくして、円滑な事業推進はあり得ない。今後も、地域を守り、希望にあふれた未来を築くため、あらゆる関係者の皆さま方と力を合わせて挑戦を続けていきたい。












